
目前に迫る「自動運転」の時代。わが国の政府も2020年までの実用化を掲げています。
ハンドル操作が不要になる? 前方車両の追い越しまで車が自動でやってくれる?
いやいや、実は「自動運転」ってそれだけじゃありません。
自動運転の開発によって培われた技術は、さまざまな分野への転用が期待されています。
自動運転の技術と、その自動運転が変革していく社会を、最新情報を織り交ぜながら、
このコラムでは解説していきます。
第17回 読者のACCの疑問に回答 Vol.02
本コラムページには、読者からACCに関する多数のコメントが寄せられています。その中のこれはというコメントをテーマにとりあげ、当ACCサイトの執筆/監修を行う西村直人が編集担当に解説する形で話が進みます。

西村さん、前回(第15回)の「疑問に回答!」をやってから、読者さんのコメントが増加傾向にあるんですよ。

本当ですか! うれしいですね。コメントをたくさんいただけているということは、それだけみなさんACCをはじめとした運転支援技術をお使いになられているということですね。

そこで、今回の質問です。
「霧や、ものすごい豪雨で前が見えにくくてゆっくりしか走れないときに、前の車を検知してついて走ってくれたら便利だと思いますが、そういうときにACCは使えるのでしょうか」(あんぱん81さんさん 30代女性/東京都)
確かに、最近ゲリラ豪雨も多いし、ACC走行中でもゲリラ豪雨にあったらACCはどうなっちゃうのか、知っておくと安心です。ミリ波、ステレオカメラ、レーザーレーダーと、それぞれの場合で、端的に教えいただけますか?西村さん、端的に、ですよ。

センサーにはそれぞれ得意分野と不得意分野があります。ミリ波はより遠くまで認識でき、複眼光学式カメラ(ステレオカメラ)は形の認識能力に優れ、レーザーレーダー(主に衝突被害軽減ブレーキ用のセンサーでACCには使われていません)は短距離であれば正確な測距性能が高いという傾向があります。そこでご質問にある豪雨での使用ですが、いずれのセンサーでも認識性能の限界値を超えてしまうことがあります。人間の眼で前が見えづらいという状況では、センサーも正確な判断がつきにくいと覚えていただくとよいでしょう。ゲリラ豪雨で前が見えづらく運転が困難であると感じたら、速度を落として走行し、それでも怖いと感じたら安全な場所にハザードランプを点灯させて停車し、雨足が弱まるのを待ちましょう。


なるほど、人間の眼で見えづらいことは、センサーだって判断がつきづらいわけですね。それでは次の質問。というか、ご意見です。
「運転技量の低下が日本では見られます。今すぐスウェーデンの様に産学政府主導で自動運転技術を磨かなければ電気自動車の世界では日本はイスラエル技術に遅れをとり衰退します。即有料自動車専用道路から行うべきです」(ときおかとしおさんさん 60代男性/兵庫県)
と、日本の最近の道路交通のあり方に一石を投じるようなご意見です。西村さんはどのようにお考えになりますか?

運転技量の低下は一部で言われているようですが、確たる指標がないため一概には判断ができないところがあります。しかしながら、近年の乗用車では運転支援技術が発達していることから、それらに頼った運転操作が目に余るという事実もあるかと思います。さて、スウェーデンでのお話ですが、大変興味深いですね。私も2016年夏、同じ北欧地域にあるフィンランドの交通事情を取材してきましたが、バスやトラムなど公共交通機関における自律自動運転技術の導入に積極的であることがわかりました。日本では、SIP-adus主導により、産官学連携の自律自動運転技術の開発が進められており、2017年9月からは高速道路だけでなく一般道路も使った大規模な実証実験がスタートします。

なるほど、日本もただ手をこまねいているわけじゃないんですね。あとは、こんなACCについて好意的なご意見もいただきました。
「今年1月に初のACC車を購入、高速道路での走行に感動しています。高速では今までもクルーズコントロールを常用していましたが前の車に近づくと減速させたり解除したり忙しかったのですがACCだと車間を自動調整してくれるので快適です。まだ運転補助装置としての認識ですが自動運転に一歩近づいた気がして楽しみです。」
これは全くその通りですね。最近では、アウディがレベル3の自動運転車を市販化したとか聞きましたが?

そうなんです。ACCは自律自動運転への扉を開く運転支援技術でもあります。ACCのシステムには機能的な限界点があるにせよ、アクセル操作とブレーキ操作が自動的に行われることでドライバーの疲労軽減効果が期待できます。また、システム(機械)が行う運転操作では安全性が確保できない、具体的にはアクセルやブレーキ操作が足りないとドライバー(人)が感じた場合は、それらの運転操作をドライバーが補うことで安全な運転環境を手に入れることができます。そうした人と機械の関係は、システムが機能限界であるとした場合にドライバーに運転操作の権限が戻されることが条件である「自動化レベル3」の自律自動運転技術が導入された後も継続されます。2017年7月、アウディの新型セダン「A8」に自動化レベル3の技術が搭載されましたが、まずは欧州における特定の高速道路上で60km/h以下の場合にのみ機能します。ただし、使用するにはその国や地域の法律を遵守しなければならず、現状、日本でA8が搭載した自動化レベル3の自律自動運転が行えるかどうかは、SIP-adusを中心とした国の機関で検討中です。

次回もお楽しみに!
公開日 2017年07月24日

西村 直人【交通コメンテーター】

1972年東京都生まれ。クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。得意分野はパーソナルモビリティだが、WRカーやF1、2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗もこなす。近年では大型のトラック&バス、トレーラーの公道試乗も行うほか、HVのバス&電車など、物流や環境に関する取材も多数担当。2007年度東京都交通局バスモニター。「JAF Mate」誌では、本誌初の二輪連載企画を4年間担当。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。
- 日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事(ITS分科会リーダー)
- (財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員
- (協)日本イラストレーション(JILLA)協会 監事
- 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(2010年度から)
連載バックナンバー
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- 第27回 読者のACCの疑問に回答<Vol.06>
- 第26回 世界家電ショーに見る自律自動運転の方向性
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- 第19回 読者のACCの疑問に回答<Vol.03>
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