お客様の声
〜JAF ストーリー〜

69

2010年12月号

落輪

地獄に仏

お客様
小倉和彦さん - 宮崎県

小倉さんは、毎年、正月とお盆の時期に山に登る。今年の元日は霧島連山縦走を選んだ。高千穂河原のビジターセンターから入り、えびの高原に抜けるコースだ。

スタート地点まで奥さんの車に乗せてもらい、えびの高原まで迎えにきてもらう計画だった。

前日の大晦日。寒波がやってきて、標高が高い県道に路面凍結の注意報が出た。それで、宿泊先のホテルにチェックインする前に道路状況の下見をした。予想通り、路面はうっすらと凍結していた。

途中、ゆるやかなのぼりの右カーブで、車が突然、滑りはじめた。

「ゆるい坂道をくだって、それからのぼりだったからね。スピード出てると思って、パッとブレーキ踏んだのがちょっと、いけない。きゅっと曲がってガツンとなった」

滑りながら180度ターンして反対車線の側溝に落ちたのだ。左側の両輪が溝にすっぽりとはまってしまった。後輪はパンクした。

そこは携帯電話がまったくつながらないところだった。通りかかったふたりの男性が手伝ってくれたが、重い車はとても上がらない。小倉さんは自分のJAF会員証を見せて、電波がつながるところで連絡してくれるように頼んだ。

そのうち、少しずつ暗くなってきた。通りかかった車が、また声をかけてくれた。今度は乗せてもらうことにした。ビジターセンターまで行こうと考えたのだ。

すでにJAFには連絡が入っていた。ビジターセンターで落ち合いたいとオペレータに告げた。

やってきたのはM田直人隊員。レッカー車の車内で状況を説明すると、M田隊員は広い場所でチェーン装着をはじめた。 まだ早いんじゃないかと、小倉さんは思った。そのあたりの路面は凍結していない。

「あくまで、念のため、でした」

M田隊員は、そのときのことをよく覚えていた。

「こちらのレッカー車が滑ったらどうもできないですから。行ったら、それが的中して……」

現場はアイスバーンだった。

「結局、滑ったときに気づくんです。でも遅いんですよね。雪が降ったらアウトですね、鹿児島は、ほんとに渋滞とか事故も増えるんで……」

鹿児島のJAF隊員は、冬になるころ、レッカー車にチェーンを装着する練習をする。雪はそれくらい珍しいのだ。スタッドレスタイヤなどの凍結対策をするドライバーもいないそうだ。小倉さんも、もちろん。

最後に、殊勝な顔つきで、小倉さんは言った。

「地獄に仏って感じでした」

とはいえ、実は彼はタフだ。若いころ自衛隊にいた。レンジャー訓練も受けた。いまも毎朝7キロのジョギングは欠かさず、これまで地球2周分は走ったと豪語する。

救出作業を見ながら、どうやら小倉さんは、楽しそうだったらしい。
(文=松尾伸弥 写真=両角栄介)

駆けつけた隊員

M田直人 隊員

鹿児島支部。
最近よく思うのが「初心を忘れない」ということ。「まず、お客さんの笑顔を見たいという気持ちですね」

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