お客様の声
〜JAF ストーリー〜

74

2011年7月号

バッテリー

夜の水汲み

お客様
田原重夫さん、宮子さん - 広島県

田原重夫さんは妻の宮子さんといっしょに、2〜3週間に一度、車で1時間ほどの場所にある「景浦名水(かげうらめいすい)」に水を汲みに出かける。

景浦名水はあたりでは有名なところだが、狭い山道をのぼっていかなければならない。行けば何台も車が止まっていることもある。

「だから、パチンコの帰りに行きます。パチンコを閉店までやって、そのまま行く」

夜中の水汲みである。

「パチンコに負けたときは、帰ってから、これ高い水やなぁということになるわけです。たまらんですね」

などと、重夫さんは陽気なのだ。

昨年の12月12日。

いつものようにエンジンをかけたままヘッドライトで水汲み場を照らし、ポリタンクに汲んでいた。車内にはヒーターを入れて、タンクが満杯になるとつぎのと入れ替える。タンク6個ほど。総量、約120リットル。1時間ほどかかる。

水汲みが終わって帰ろうとしたときに、突然エンジンが止まった。ヘッドライトも消えた。バッテリーあがりである。しかも運悪く、宮子さんが助手席の窓を開けた、そのときに。

冬の山中。夜中の零時。窓は開いたまま。天気予報は夜半過ぎから雨。携帯電話は圏外。

懐中電灯はふたつあった。

宮子さんは朝まで待とうと言った。

「イノシシにね、途中で出会うかもしれんって思ったから、そう言ったんだけど、いますぐおりる言うから、私はもういやで……そんなのねぇ」

ふたりはあれこれ言い合って、結局、重夫さんがひとりで下山。

「通勤用の靴があったんで、それを履いて……革靴がコツコツって、アスファルトに当たる、あの音だけがものすごい響くんです」

途中、懐中電灯の光にイノシシの目が光った。

「いやもう、どうしましょうって思たら、向こうがよけてくれたんで。そこだけ走ったという……恥ずかしながら、怖かった」
民家が見えるあたりまでおりると、ようやく携帯電話が通じた。JAFのオペレーターからは、その場で待っているように言われた。

「ちょっと待って、そら無理、上に残しとるから、真っ暗なとこに」

と、奥さんを気遣い、重夫さんはまた山道を引き返したのである。

途中、レッカー車が坂道をのぼってきた。久谷真司隊員だった。ヘッドライトに人影が浮かんだ。こんな時間に山道を登っているのは田原さんしかいない。隊員は声をかけた。

宮子さんはその間……。

「私はね、懐中電灯を点けたり消したり。あんまり長いこと点けてたら、電池がなくなるから……朝まで帰ってこんと思ったんですよ、私は」

そのうち、低いエンジンの唸りが響いてきた。

「ありがたく感じました。なんか、天使みたいな」

と、宮子さんは笑い、それくらいうれしかったと何度も言った。
(文=松尾伸弥 写真=両角栄介)

駆けつけた隊員

久谷真司 隊員 36歳

広島支部。
「応急始動してもまた止まるだろうと判断して、つまり自走では帰れない状態で、バッテリー交換になりました」

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