JAFストーリー

Episode 76 切り株

萩原貴志隊員。28歳。長野県諏訪基地。

萩原貴志隊員。28歳。長野県諏訪基地。「別荘地は、道の状態などがあまりよくない場所がありますので、気をつけて運転してください」

20年ほど前に智子さんのお父さんが八ヶ岳の山麓に別荘を建てた。そのコテージでの出来事。

「サンケツって言ってるんですけど、最低でも月に2回は行かないと山欠乏症って感じで……」

山小屋の窓を開けて空気を入れ換えることも必要だが、「ぶんた」という名の大きな犬を散歩させたり、仕事をしたり、週末は八ヶ岳で過ごすことが多い智子さんである。

今年の4月17日。

「日曜日の朝です。車が動かないんですよ、なんかに引っかかって。バックでもググググって言って。それで4WDのスイッチに切り替えてやってみてもダメだったんで……へんな匂いもしてきたような気がして、こういうときって、経験から、無理やりやっちゃいけないなって思って」

車からおりて下を覗いたら、大きな切り株に乗りあげていたのである。

智子さんは、すぐにJAFに電話した。

「ずっと運がいいって思ってたのに、全部、運を使い果たしちゃってこういうことが起きたんだって思って、罰が当たったんだぁって思って……しょんぼりしてたんですよ」

やってきたのは萩原貴志隊員。28歳。智子さんには30歳をこえているように見えた。

「すごい、その隊員のかたが落ち着かれてて。まぁそういうお仕事なんだと思うんですけど、こうしてみましょうとかって言って、しばらくこう……なんかジャッキでうしろを上げたりとか、そういうことをされていたのを、ただ私はもう、見てるだけ、みたいな感じで」

智子さんの車にはメーカー純正のエアロパーツがついていた。

「それで車体が少し低くなってたんです」

と、萩原隊員。

「それをうまくよけてからジャッキを入れて、そのタイヤの下に木材を入れて……」

萩原隊員がもっとも気にしていたのは、車体に傷をつけないということだった。慎重に、安全に出すというのがいちばんのポイントだ。

「何度も何度も、ちょっと動かしては車の状態と切り株の状態を確認しながら……」

それでも30分ほどで作業は終了した。

「どうしようって思ってたのが、隊員さんと話してたら、すごく気持ちが落ち着いてきて……それって、やっぱり対応によるのかなぁって思って。緊急時に、慌てちゃってますからね、こっちはね、だから……ちゃんと教育もできてるんだなぁって」

なによりも智子さんの記憶に残った、隊員の落ち着き。

「印象的でしたね。どっしりしてるって感じで。なんか切り株みたい」

 そこまで言ってから、ふと気づいて、智子さんは言い直した。

「切り株じゃなくて、大木みたい……そんな感じでしたね」

切り株は、智子さんが後日、チェーンソーで平らにしたそうだ。

(文=松尾伸弥  写真=両角栄介)

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