
大阪府/西里和也さん 75歳
西里和也さんは現役時代、ある製薬会社の安全運転管理者だった。
「そら大変やったですわ。もうねぇ……」
営業車は540台。それらが起こすさまざまなトラブルを処理するのである。そのころの苦労話は山のようにある。
「私、540名の運転手にね、どんな違反でも全部報告させたんです。どんな小さなことでも。ほんで私が安全運転管理者になってちょうど4年めに、やっと無事故をね、達成しました」
西里さんの地道な取り組みの結果、540台が1年間、無事故だった。
「大阪府警からも表彰してもらいました」
西里さんは、運転時の心構えにも一家言ある。
「私はね、運転するときは車6台を運転する気持ちでおるんです。前の車と、その前、左右、うしろ、自分。その6台を自分で運転する気持ちで運転するんです。ね。前の車の前が止まったら、必ず前が止まるんですから。前が止まったときに気づいても遅いですよね。前の前の車がどういう動作でやっとるか、それで左右、うしろの車、いつ突っこんでくるかわからんですから。つねに6台を運転する心構えで運転します」
などと、熱い言葉が続く。
今回は、そんな西里さんの話である。
昨年の6月19日。西里さんは、近くの集会場での寄合のあと、雨のなか駐車場に戻った。夜の8時半。キーホルダー型のリモコンスイッチでドアを開け、シートに座りキーを挿しこんだ……つもりが、なんと、自宅の鍵を突っこんでしまったのだ。
先端が1cmほど入ったところで、動かない。
「入るどころか抜けもせんです。完全にもう……頭にきたからガンとやったら曲がってしもうたんですわ。ぜんぜん動かへん。動かへんし、ぐにゃっと曲がってしもとるし、これはあかんと思て、JAFさんに連絡したんですね」
ところが駐車場は9時には閉まってしまう。西里さんは翌朝改めてJAFに連絡することにして、その日は友人の車で帰宅した。
そして翌日の朝、やってきたのは安藤国明隊員。昨夜よりもひどい雨だった。
西里さんも、雨のことをよく覚えている。
「土砂降りでね、そらひどかったですわ。で、私がドアを開けといて、傘をさして、安藤さんにこうやるんですけども、ほんなん、びしゃびしゃ。頭もぼろくそ。ようやってくれましたで」
安藤隊員は、恐縮する。
「私はカッパ着てるんで、大丈夫ですよ言うたんですけどね、ほんまにやさしくて……」
1時間近くかかった。安藤隊員もあきらめかけながら最後だと思って力を入れたとき、ようやくキーは抜けた。
「やった、抜けた!」
ふたりは、抱き合わんばかりに喜んだ。
「恥ずかしいですな、ほんまにね。二十何年っていうのを安全運転でやってきて、うん、表彰までしてもろておるけれども……恥ずかしい」
西里さんの苦笑である。
(写真・文=松尾伸弥)