JAFストーリー

Episode 83 ぴったりサイズ

谷口雅樹隊員。51歳。宇治大久保基地。

谷口雅樹隊員。51歳。宇治大久保基地。「地域がら、こういうトラブルは多いです。まずお客さんの話をよく聞いて、状況の確認をして、それから作業に入ります」

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京都府/網田美紀さん 26歳

昨年の12月。結婚を目前に控えていた美紀さんは、おばあちゃんに着物を買ってもらうことになった。

「お嫁に持っていく着物を買ってくれるゆうんで……」

十二単を着付けることができる免状を持っているほど、きちんと習った美紀さん。やはり新しい着物を買ってもらうのはうれしい。

「できあがった日やったんかな、あれ」

と、美紀さんが訊くと、となりで88歳のふみ子おばあちゃんが答える。

「寸法取りに行く日やってんな……私をね、迎えに来てくれましてん。呉服屋さんに向けて行こう思て」

淀みもなく、明快なおばあちゃんなのである。

風が強く寒い日だった。山に面した集落におばあちゃんの家はある。足が悪いおばあちゃんのために、美紀さんはわざわざ家の前に車をつけようとした。

家は坂道に面している。家の手前は石垣で、向かいは高いブロック塀だ。細い坂道は家の先でゆるく蛇行している。

「いつもおじいちゃんが軽トラに乗ってシュイって止めてるから、私もいけるやろ、みたいな」

細い坂道から直角にバックして車を入れようとした。はじめての経験だった。

バックをはじめるのが少し早すぎた。車の後部が石垣にぶつかりそうになり、だめだと思って前に出し、何度かハンドルを切り、前後に動かしているうちに―。

「前にも行けへん、うしろへも動けへん。ようこんな、うまいこと入ったな」

と、おばあちゃんがあきれるほどみごとに、車が真横になって坂道をふさいでしまったのである。前方にブロック塀。うしろは石垣。

「ほんとにもう、ちょうど、あそこのサイズが私の車のサイズとぴったりだったんです」

車の全長と道幅が同じサイズだということを、美紀さんはそうやって知った。驚きつつも、自分の運転では、もうどうしようもなかった。JAFを呼んだ。

谷口雅樹隊員がやってきた。

「もともとせまい坂道ですね。はい。なので、レッカー車は坂の下に止めて、ガレージジャッキを持って、坂道を歩いてあがっていきました」

京都の街中とか山の近くとかは道がせまく、同じようなトラブルは少なくないらしい。

「ぜんぜん隙間がない状態で、ジャッキを入れて、そのまま平行に振る感じですね」

ガレージジャッキは車輪がついているので、車体の下に入れ、平行にずらす。

「少しずつ振って、降ろして、それを何回か繰り返して脱出させました」

「すぐでした。傷もぜんぜんつかへんかったし」

美紀さんは感心している。

携帯電話でそのときの写真とか、撮ってないんですか?と訊いてみた。

「撮ってないです。恥ずかしくて、よう撮らないです」

と、美紀さん。

「いまから思たかて、ほんま、ようあないにうまいこと入れたな思いますわ」

おばあちゃんは何度もそう言って、笑うのである。

(写真・文=松尾伸弥)

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