JAFストーリー

Episode 84 トロフィー

伊藤勇樹隊員。28歳。郡山基地。

伊藤勇樹隊員。28歳。郡山基地。自宅から近いのでよく来るという飯坂温泉の共同浴場前で。「共同浴場もたくさんあります。仕事の帰りに寄ったりしますね。ほんと、贅沢ですよ」

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福島県/三浦信子さん 55歳

三浦信子さんは昨年の夏、久しぶりに実家に戻ってきた娘を乗せて福島市内にある「あづま総合運動公園」に向かっていた。

娘は小学生のときから陸上競技が得意で、いまは他県の大学に行っているが、このときは福島県の総合体育大会にエントリーしていた。大学生なので社会人の部で、三段跳びに出場するのだ。

「大学に行ってからは3年ぶりに地元の大会に出るので、私たちもすごい楽しみにして行ったんですよ」

家を出てしばらくすると車体の前方から異音がした。

「最初は石ころが当たったような、カタッだったんです。だんだんその音がガタガタガタに変わってきたんです」

しばらく走ってから、自動販売機が並んでいる空き地を見つけ、入った。

あとで応援にくるはずの旦那さんに電話をしたが、その時点では仕事を抜け出せないという返事だった。娘はすでに競技場に到着している友人に電話をして迎えにきてもらうことにした。そういう手配をする娘のとなりで、信子さんはJAFに電話した。

友人がすぐにきてくれて、娘は競技場に向かった。ひとり、信子さんはJAFの到着を待った。

「これで娘の応援には行けないなって。せっかく3年ぶりの大会なのに……ああこれで、JAFさんの車に引かれてどこかの工場に行ってとか、いろいろ想像しちゃって」

20分ほどで伊藤勇樹隊員がやってきた。状況を話すと、原因を調べるために信子さんを助手席に乗せて伊藤隊員が運転した。

「30メートルくらい行って、またバックしてきたら、わかりましたって言ったんです。すごいすごい、なんだろうって思って」

タイヤを締めつけるナットがゆるんでいたのだ。毎年、春になるとスタッドレスタイヤからノーマルタイヤに替えるのだが、その年は旦那さんがタイヤ交換をした。

すべてのタイヤのナットを確認して、作業は終わった。なのに、伊藤隊員はその場を去ろうとしない。信子さんは、その場所で旦那さんと合流することになっていた。

「お仕事終わったのにどうしてかなって、ちょっと思ってて、あっと思ったんですよ。主人は自分の車のタイヤ交換もやったから、主人の車も見てくれるつもりなんだって、それで、いてくれるんだって……その気持ちがすごいうれしくて。ほんとに、主人の車がくるまで、ずっと待っててくれて……」

伊藤隊員は、旦那さんの車にも問題ないことを確認。

「締めすぎと締めなさすぎはよくあります。タイヤ交換の注意点などを伝える機会があれば、できるだけお話しするようにしてます」

そういう活動もまた、自分たちの大切な仕事のひとつだと、ものすごく当たり前のように、伊藤隊員は言った。

「競技場にはちゃんと間に合って、応援できました……娘は、ほら、優勝したんです」

と、信子さんは、そのときの優勝トロフィーを大切そうに棚から取り出した。

(写真・文=松尾伸弥)

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