JAFストーリー

Episode106 七五三

吉上仁士隊員 30歳。芦屋基地。

吉上仁士 隊員 30歳
芦屋基地。
「トラブルや故障のことを忘れて楽しい思い出にしてほしい。それを目標に、接客を大切にしたいと思っています」

兵庫県・姫井美香さん(38歳)

 

昨年の11月。次男の七五三のお参りに、姫井美香さんは、旦那さんの運転する車で芦屋神社に行った。長男と次男、4人家族だ。

 芦屋神社は、鳥居をくぐると右手にりっぱな手水舎があり、その手前を入っていけば駐車場だ。駐車場は満杯だった。旦那さんはバックして、手水舎の前で待機した。

「1台出ました。けど、確かそれが、少し無理やり止めてたような場所だったんですね。なので、うちの車を止めたらほかのかたに迷惑になりそうなので、ちょっと見に行ったんです」

 美香さんが車をおりて、様子を見に行った。

「待っててねって言ったんですけど、どうやら通じてなくて、ついてこようとして」

 大きな手水舎の正面側には低い段が設けてある。左前輪が、その段差にゆっくり乗りあげてから、角の向こう側へ着地した。

「ガンて音して、あれと思ったら、車が止まってたんですよね。がっつり乗っちゃったんです」

 左ドアの下に手水場の床面が接触したまま、車は動かなくなった。

「どこか壊れたら結局JAFを呼ばなきゃいけないから、もう呼びましょうって」

 すぐにJAFに電話した。少し時間がかかると言われた。

「神主さんとか出てこられて、お手水場は問題ないので大丈夫ですよって言っていただいたんですが、ちょうど七五三のシーズンで、車はどんどん来るんですよね、。なので、すみませんって」

 やってくる車に、美香さんが頭をさげて、出口から入ってもらえるように誘導した。肩身がせまい感じで、と、美香さんは笑った。

「主人も、なにかしてなきゃいけないってことで、ジャッキが入るところじゃないのに、一生懸命、上げようとしたり。まわりもいろいろ言うし」

 なにせ、七五三の参拝客であふれる晴れた日に、手水舎をふさぐかたちで車が動けなくなっているのである。好奇の視線が、とにかく痛い。

 そして、吉上仁士隊員が到着した。現場の様子に驚いた。

 そこからの吉上隊員の状況判断と手順の決定と説明、そして実際の作業は、魔法のようだったと美香さんは言う。秘密の液体のようなものをタイヤのまわりに振りまき、車体の下部を確認しながら、リモコンでレッカー車を操作して、あっと言う間に車を真横に引いたのである。

「あれは、ただの水です。やっぱり路面が濡れてるほうが滑りますし」

 とは言いつつ、実は吉上隊員も、見物するひとが多くて緊張したと笑っていた。

「ついでに駐車しましょうかっておっしゃっていただいて。私も主人を落ち着かせたかったので、お願いしますって」

 吉上隊員が駐車場の空きスペースに車を入れて、作業完了となった。

「トラブルにあったときって、やっぱりみなさん、落ち込まれてるんですよね」

 だから最後のケアが大切なのだと、吉上隊員は言った。

 その日から、次男の「かっこいい」にJAFのレッカー車が加わった。

(写真・文=松尾伸弥)

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