お客様の声
〜JAF ストーリー〜

109

2015年1・2月号

スタック

スイッチOFF

お客様
山谷春美さん(42) - 北海道

 春美さんの旦那さんは、海上保安庁勤務である。昨年1月のある朝、仕事が終わった旦那さんを迎えに行くために、港へ向かった。

「8時ちょっと過ぎくらいですよね、家を出たのは」

 1月の釧路は寒い。雪は多くはないが、路面は凍結する。

 春美さんは、慎重に制限速度以下で走行していた。港まで約4q。大きく右にカーブする2車線道路。

「内側というか真ん中のほうの車線を走ってたんですよ。センターラインがあって、その向こうが対向車線ですよね、そしたら、ほんとにびっくり、キュイーンって」

 いきなり車体が右側に振られ、対向車線に入りこんで、急旋回した。本人が気づかないうちに右車輪がセンターライン付近の雪を踏んだことが原因、と、あとでわかった。反対車線の歩道側の車線をふさぐようにして、真横を向いて止まった。車が途絶えていて、事故にならなかったのが幸いだった。

「とりあえず、エンジンかけて、バックに入れて、ちょっとは動くんです、ちょっと動いたらヒュルルルってタイヤが空転してしまうんです、キュルルルみたいな」

 JAFに連絡してからも、隊員の到着を待ちながら、何度かバックしようと試みた。

 通勤時間帯で車の数も増えていた。北海道ではよくある光景なのか、ドライバーたちが笑っている。

「がんば、みたいな」

 春美さんは、情けなく、そして、あせるしかなかった。

 すぐに朝熊佑太隊員がやってきた。状況を説明した。車両周辺の安全対策を施したあと、朝熊隊員は運転席に――。

「わかりましたって、見てみますって感じで隊員さんが運転席に座りました……座ってドアを閉めたら、ふっと動いたんですよね、えええ? ちょっと待って」

 なにごともなかったように、朝熊隊員は車を移動させた。

「わあっ、うそでしょうって。この車、動いちゃったのって」

 朝熊隊員が説明してくれた。

「最近の車って、横滑り防止装置といって、車の挙動を安定させる装置がついてるんですけど、もしそのオンオフのスイッチがあるなら、それを切ることでスタックから出られることがあります」

 加速時のスリップやカーブでの横滑りを防止する安全装置だが、状況によっては、必要な駆動力がうまくタイヤに伝わらないことがある。

『ぬかるみや新雪から脱出するときは、OFFスイッチを押してシステムをOFFにしてください』

 などと、車の取扱説明書に書いてあることを、春美さんは帰宅してから確認した。ところが、技術系の高校に通う息子さんは、スイッチのことを知っていたらしい。

「お母さん、知らなかったの、みたいな。お母さんアホじゃないって言うんです」

 作業中、春美さんのメールを見て、心配した旦那さんが港から走ってきた。からだから立ちのぼる湯気を、朝熊隊員はよく覚えている。

「主人に運転してもらって帰りました。私はおっかなくて」

 春美さんの家族は、みなさん、実に頼もしいのである。
(写真・文=松尾伸弥)

駆けつけた隊員

朝熊佑太 隊員 32歳

釧路基地。
「自分の車にどういう装置がついているか、使いかたはどうか、一度、取扱説明書を確認してみることも大切です」

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