JAFストーリー

Episode110 メロメロ

櫻井秀樹隊員 39歳。高崎基地。

櫻井秀樹 隊員 39歳
高崎基地。
「口べたであんまり話が得意じゃないんで……そういうふうに言っていただけると、自信につながります」

Episode110 群馬県●松本光子さん・64歳

 松本光子さんは、息子さんも娘さんも結婚して、旦那さんとふたり暮らし。

「結局、うちは、息子の好みに合わせて車を買わされてるんです。車を買い換えようと思うって言ったら、息子が出てきて、これがいいよって」

 そんなふうに息子さんが選んだ小型の外国車で、昨年の8月31日、光子さんはお母さんといっしょに近くの日帰り温泉に行った。

「同居はしてないんですけど、私の母で……この畑をはさんだ向こうの家に住んでます」

 日帰り温泉には、よく出かけるそうだ。

「磯部温泉ってあるんですね。お湯が茶色っぽくて、ぬめぬめしてて、いいんです。車で30から40分で行けるんです」

 午前中に出かけて、のんびり湯につかり、昼すぎに磯部温泉を出た。

「高崎に寄って、なんかおいしいもの食べて帰ろうねって言って、国道18号を走ってたんです」

 走りはじめてしばらくすると、突然、異音がした。

「眠気防止道路ってあるじゃないですか。ガタガタ。あんな感じ」

 しかし、いつまでも音が止まらないので、道路横の駐車スペースに車を入れた。トイレがあるのも知っている、よく利用する場所だ。

 車を降りて確認してみると、右後輪タイヤの接地面の真ん中に、鍵のようなものが刺さっている。どう見ても、どこかの家の鍵だ。

「なんだこれはって感じですよね。誰が落としたの、みたいな。プンプンしちゃうわけ。せっかく楽しい1日が、みたいな感じで」

 JAFに電話をかけたが、夏休みの最終日ということもあり、1時間以上かかるかもしれないと言われた。待つことにした。トイレに行き、近くで食事でもしようかと考えていたところで、JAFの車積載車がやってきた。

「前の依頼で、搬送する仕事を予定されてたんですけど、それがキャンセルになって」

 そういう理由で、すぐに櫻井秀樹隊員が到着したのだ。

「もうね、地獄に仏」

 と、光子さんは笑う。

「うちのは、ランフラットタイヤで、パンクしても100キロくらいは走れるらしいんですね。だけど高いんです、このタイヤ。できれば修理しいたいって言ったら」

 隊員は、あちこちに電話してくれた。そして―。

「このまま車に載せていきましょうって言ってくださって」

 特殊なタイヤということもあり、現状のままディーラーにまかせるのがいいと櫻井隊員は判断した。

「やさしいかたでね、高齢の母が乗るときも、トラックのステップって高いじゃないですか、ちゃんと手をこうやって……うちの母なんて男尊女卑の時代に生きてるから、男のひとにやさしくされると、もう、メロメロなの」

 と、光子さんは笑う。

 車積載車のなかで会話がはずんだわけではない。が―。

「私、男のひとがペラペラしゃべるの、好きじゃないんです。だから、よけい、すてきだったかもしれない」

 私の好みです、とまで言いつつ、光子さんも、メロメロ。

(写真・文=松尾伸弥)

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