お客様の声
〜JAF ストーリー〜

119

2016年1・2月号

落輪

ケア

お客様
八重樫正美さん(67) - 岩手県

八重樫正美さんの家には、広い県道からまっすぐ一本道を入っていく。約400メートル。それは細いけれど、市道なのだそうだ。
「市道なんだけど、袋小路なので、雪かきなどは自助努力。市のほうから、除雪機のガソリン代くらいは補助が出るというかたちで……」
 入り口付近には樹木が並んでいるが、そこから先は左右に田んぼが広がる。あたりには家も見えない。雪が積もると、一面が雪で埋まる。どこが道でどこが田んぼがわからなくなる。なので、道の両側に杭を立てている。
「けど、毎年、誰か落ちますね。宅配便とか郵便局とか、回覧板を持ってくるひととか」

 八重樫さんは、障害者相談支援センターで相談員の仕事をしている。毎朝、出かけるときに小型除雪機で市道の雪をかき、帰ってくると県道側に車を止め、歩いて除雪機を取りに戻り、また雪をかき、車を家に戻す。
「でも、なんとなく勘で、突破できそうなときは、南極観測船の宗谷みたいなもんですね。ぐいんと行ってちょっとさがって……ほんとは歩いていって、除雪すればいいんですけども、やっぱり暗いし、早く帰りたいから」
 面倒なときは、そうやって、車で雪をかき分けながら、進んでいくのである。
 
ところが、その日。
「何度も突き進んではバックしてたら、どうも、蟻地獄みたいに、はまってしまってですね、これ以上はちょっと無理だなって状況になって、ガタンと右前輪が落ちてしまったんですね」
 周囲は雪の平面で、どんどん暗くなっていく。家まで250メートル。いったん歩いて家に帰り、奥さんとスコップを手にして戻って、あれこれやってみたが出ない。

「押してもなにしても動けなかったもんですから。JAFさんをお願いして……」
 その日は豪雪で、救援依頼が重なっているので、1時間半くらいかかると言われた。その間に、八重樫さんは除雪機で家から車までの間を除雪しておいた。
 塚本隊員がやってきた。すると、いきなりレッカー車をバックさせながら入ってきた。八重樫さんは驚いたが、実は、塚本隊員は到着後、入口にいったんレッカー車を止め、歩いて現場を確認して、手順を考えていたのだ。
「こちらでは、そういうことは日常茶飯事なので。はい」
 と、塚本隊員は笑う。
「作業灯がうしろについてますから、それをつけて、慎重にさがっていきました」
 作業時間は約10分。八重樫さんは、その手ぎわのよさに驚いた。しかも、作業が終わったあと-。

「どれくらい大変だったかってことを、しっかり聞いてくれたんです。ふつうなら作業して、はい終わりっていう感じかもしれないんですけど、困ってる気持ちを聞いてくれたっていうのは、うん、すごいなぁと思いましたね」
 ある意味、心のケアでしょうかね、と、しみじみと言った。困って相談にくるひとの気持ち、そして、聞くことの大切さを、八重樫さんはよく知っている。
(写真・文=松尾伸弥)

駆けつけた隊員

塚本健 隊員 48歳

北上基地。
「作業のあとの会話を大切にしています。人間が相手の仕事なんで。対、車ではないんです。その時間は大切だと、自然に身についてきました」

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