JAFストーリー

Episode122 ジェットコースター

田中至道隊員 39歳。福岡南基地。

田中至道 隊員 39歳
福岡南基地。
「四輪駆動のサービスカーでも苦労する坂道でした。毎回毎回、いろんな状況があるからこそ、やりがいがあると思っています」

Episode122  福岡県●日賀野兼一さん・46歳

大根地山は、標高652メートル。頂上付近には大根地神社という古い神社があり、国道200号沿いには「大根地神社」と書かれた大きな看板が立っている。

  8年前に、奥さまの実家がある飯塚市に引っ越してきた日賀野兼一さんは、その看板が気になっていた。ある日、中学入学前の次男と奥さまと3人で神社に行ってみた。
「車は下の鳥居のところに止めて、歩きました」
  頂上まで1時間ほどの登山だった。せまく急な坂道だけれども舗装されていて、途中からは、石がでこぼことタイヤ幅に沿うように埋められている。つまり、これは、車でも登れるのではないか、と、日賀野さんは思った。

  そして、昨年の3月の終わり。子どもたちは春休み。
「前は上の子が行ってないので、2回めは4人で、気楽な感じで車で登ったんですよ」
  バンクのように傾斜した急カーブが続いた。そろそろと進んでも車体が左右に揺れる。徒歩で登ったときには想像できなかった感覚に驚いた。
  そして、神社の手前。せまく、恐ろしいほどの急カーブ。
「いままで登ってきた角度とは違うってわかりました。最大斜度ですよ。体感的にはジェットコースターですよね」
  前輪が激しく空転した。
「タイヤの焼ける匂いがしてきて、白い煙があがって」
  これはだめだと思い、ゆっくりとバック。ところが右に切りすぎたのか、左前輪がアスファルトから落ちた。

「下は絶壁です。これはもう自分じゃどうしようもないと思って、みんな降りて……」
  日賀野さんは、入会20年にしてはじめてJAFに電話した。オペレーターに状況を伝えると、レッカー車では入れない可能性があるので、バン型のサービスカーを手配すると告げられた。到着まで30分ほどかかるらしい。その間に、子どもたちは神社に参拝し、戻ってきたころ、エンジン音が聞こえてきた。

「わぁ来た、みたいな。ブルーの車があがってきたときには、神々しく見えましたよ」
  カーブの手前は少し広くなっていて、車の切り返しもできる。やってきた田中至道隊員は、そこにサービスカーを止めて、状況を確認した。
「どうするかは、正直、消去法です。下は崖、急坂でジャッキアップは無理。左前タイヤが落ちて、前輪駆動。ハンドルは右に切れていたので、逆に切ればタイヤ面がアスファルトの角に当たり駆動がかかる。その状態でバックして、タイヤが噛めば自力であがる」
  そう判断した隊員は日賀野さんに説明し、了解を得た。
「私が挑戦してみますって行って車に乗られて、あっさり脱出したんです。ハンドルを逆に切るなんて、私は考えもしないけど、隊員さんは、いや、慣れてますからって」
「私たちの仕事は、状況と作業プランが自分の頭のなかでできあがって、それをお客さまに説明したら、あとはぽんと終わるのが理想です。そこまでの下見とか、段取りが、いちばん時間がかかります」
  そう笑った田中隊員—。天使のようだったと形容した日賀野さんには、20代の若者に見えていた、らしい。

(写真・文=松尾伸弥)

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