JAFストーリー

Episode126 ウナギ釣り

松永健隊員 56歳。佐賀基地。

松永健 隊員 56歳
佐賀基地。
「困っているお客さまを、何とかしたい。お客さまに喜んでもらえるのは、いい仕事だと思っております」

Episode126  佐賀県●福田幸夫さん・54歳/熊雄さん・84歳

今年の4月23日午後。仕事場にいる福田幸夫さんの携帯電話が鳴った。お父さんの熊雄さんからだった。遠くで「もしもし」という声だけが聞こえた。そして、ゴソゴソという操作音。あとでわかったことだが、携帯電話が故障していたのだ。
「なんかあったのかなって思ったわけですよ。ぜんぜん反応がないんで……」

  心配になった幸夫さんは、家にいる奥さんに電話をした。
「畑か釣りしかないんで、確認してもらったら畑じゃない、ということで、釣りしかないってことで……」
  幸夫さんは上司に断って、仕事場を出た。雨が降ると、お父さんは、よくウナギ釣りに出かける。心当たりの釣り場に向かう途中で、歩いてくる熊雄さんに会えた。

  福田さん一家の住まいは、吉野ヶ里遺跡の近くである。そこの小さな川でウナギが釣れるとは驚きだ。
「佐賀は土地が低いから、潮の満ち引きをするんですよ。海岸から20キロくらいあるけど、ずっと平らなんで、満潮になるとウナギがあがってくるんですよ」
  とは、幸夫さんの解説。
「川の水が濁れば、ウナギは出てきてエサをあさるんで」
  と、熊雄さん。
「リールで釣るんですよ。橋の欄干があって、それに竿を立てかける。4〜5本くらい」

  その日、釣りをはじめてすぐに2匹も釣れた。気をよくした熊雄さんがもう1本の竿を仕掛けようとしたときに、胸ポケットから、ひょいと、車のキーが濁った川に落ちた。
「一瞬、真っ白になりました。私の身代わりになって、キーが落ちたと、まぁそう考えるより、ほかはありましぇん」
  幸夫さんと現場に戻ったものの、熊雄さんの車のスペアキーは家にもない。JAFに電話するしかなかった。が、目印もない、小さな川沿いのあぜ道のような場所に来てくれるかどうか心配だった。

  それからおよそ20分で、松永健隊員が現れた。ぬかるんだ細い道を、なんとか探して、やってきたのだ。
  細いあぜ道で、奥側にある前輪が大きく切れたまま、ハンドルがロックされていた。松永隊員は、ガレージジャッキを車体下に入れて、少しずつ方向転換を試みた。ぎりぎり、切り返すことができた。
「それで、けん引できました。ハンドルの角度がちょっと違ってたり、道がもう少しせまかったら、出せなかったです。いろいろ偶然が重なって、よかったんですよね」
  と、松永隊員は、しみじみと言った。
  幸夫さんも「偶然です」とかみしめるように言う。

「たまたま、あれ……途中で会えなかったら、現場に行っても本人いない、流されたっちゅう話で、警察沙汰ですよ」
「ほんとに、私がいたらなくて、ご心配かけました」
  熊雄さんは、頭をさげた。
「どの道を歩いたらええかって迷いました。近道はありますけど、車が通るところがいいんじゃないかと、遠まわりして、途中で会いました」

  実は、84歳でウナギを釣る熊雄さんの、その正しい判断こそが、この話のキモではないだろうか。ウナギだけに。

(写真・文=松尾伸弥)

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