お客様の声
〜JAF ストーリー〜

131

2017年4月号

バイク

火事場の馬鹿力

お客様
鈴木由実子さん(46) - 静岡市

黒の革ジャケットと革ブーツ。ヘルメットには髑髏が描かれている。
「人間、皮むきゃ、みんな同じじゃないかという意味で、髑髏、大好きです」
 由実子さんは、ハスキーな声で、そう言って笑う。彼女の愛車は、アメリカンタイプとも呼ばれるクルーザー。もちろん、色は黒。10年前からの二輪ライダーだ。

 旦那さんは18歳のときからバイクに乗っていて、いまはモタードというタイプに乗っている。ふたりで出かけるときは、落ち合う場所を決め、旦那さんが先に行き、彼女はあとからドドドドと行く感じ。

 昨年のゴールデンウィークに、ふたりで久しぶりにツーリングをしようと信州に出かけた。中部横断自動車道に乗った。対面通行の片側1車線で、道幅がせまい。
「南アルプス方面に、のぼり坂が続くんですよね。この日、横風がすごく強くって。あと、前兆がありまして……」
 朝から、軽くノッキングのような感じがあった。
「だけど、なんとかなるって思ってたんです。でも、だんだん失速してったんですよ」
 先を走る旦那さんのバイクはぐんぐん行ってしまう。

「ふいにエンジンが止まったんです。やばいと思って、壁側に寄せたんですよ」
 なんとか路肩の白線上まで行くことができた。電源が入らずニュートラルに戻せない。スタンドも出せなかった。路肩はせまい。トラックが脇をかすめていく。
「バイクが壊れることもいやだけど、二次的な事故はぜったい引き起こせない」
 と、いつも思っている。
「運転者の責任っていうのが、あるじゃないですか」

 壁にもたれ、バイクを楯のようにしてJAFに電話した。
「怖いですって、悲鳴みたいに言ったのは覚えてるんです。電話を切って、生きなきゃと思って、いろいろやってたら、なんかの拍子に……」
 一瞬、電源が入った。それで、ギアをニュートラルにすることはできた。だが、またすぐに電源が切れた。
「そこからは火事場の馬鹿力でしたね。乾燥重量で171キロなんですけど、坂道を、こう、ぐって……」

 数百メートル先の非常駐車帯まで、押したのである。駐車帯にたどりついた。異変を感じた旦那さんが戻ってきてくれた。安心できた。後方警戒車が来て、パトカーと高速道路の管理車両が来て、JAFの車積載車が到着。山本清彦隊員は、すぐに作業開始。
「高架橋なんで、けっこう風も強くて怖かったですね」
 山本隊員は、苦労しながらバイクを載せ、傷つかないように、固定するのに気をつかった。車内のパソコンでバイクショップを検索した。

「職人みたいな隊員さんで、すごく頼もしかったです。メーカーのバイク屋さんまで載せてもらいました。ショップのひとが、バッテリーじゃないかって、カバーを開けたら、ほら、はずれてるって」
 1週間ほど前に、由実子さんが自分でバッテリーを交換したのだが、締めつけ不良で、ケーブルがはずれていたのだ。

「主人に怒られました」
 そう笑うしかない。
(写真・文=松尾伸弥)

駆けつけた隊員

山本清彦 隊員 52歳

甲府基地。
「路肩のせまい高速道路などで、非常駐車帯に行けず、身の危険を感じた場合、110番へ連絡してください」

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