お客様の声
〜JAF ストーリー〜

136

2017年10月号

狭い道からの脱出

男の城が

お客様
河合正嗣さん(69) - 香川県

河合正嗣さんは東京の会社に勤め、定年後、故郷の香川県に帰ってきた。それから、スキューバダイビングをはじめ、高知県西部の柏島まで出かけるようになった。そのために、後輪駆動の大型のバンを購入して内部を改造した。
「トイレとかね、ベッドとか、テレビ、電子レンジ、湯沸かしポットとか……上にソーラーパネルをつけてて……」
 もう完全に男の城である。

「クルマのなかで寝泊まりして、またつぎの日、潜るみたいなね。あとは、温泉行ったりね。いろんなところに温泉めぐり」
 実にハッピーなのである。ちなみに、奥さんは「そんなせまいところに誰が乗るか、勝手に行けって感じ」だそうだが、河合さんは楽しくて仕方ない様子だ。

 昨年の6月にも、柏島の帰りに徳島県の神山温泉に行った。翌日は、山越えをして帰ろうと国道193号を北に向かった。
「軽い感じで行ったらね、途中の分岐点で……」
 右の道にガードレールが続き、左は細い山道。実は、国道は左で、右は林道だった。右に進んでしまい、しばらくして動けなくなった。
「道幅ぎりぎりのところで、ほんとに行き止まりみたいな感じで。雨降ってますしね。登り坂だから滑るんですよね、ブレーキ踏んだら、ずるずるっとうしろへ。左側は川だったんです。右が崖……」

 そろそろとバックで降りるしかなかった。途中、川をはさんで民家があったので、小さな石橋に車体後部を入れて切り返しを試みた。
「当然、1回じゃ曲がらないんで、切り返しをしたとたん、動かなくなっちゃったんです」
 左前は崖ぎりぎり。橋の両端には石が並べてあって、輪留めのように右後輪にかかり、バックしようにも左後輪は空転するばかり。
 JAFを呼ぶしかなかった。

 前山孝司隊員がやってきた。が、レッカー車は坂の下、車の前方にしか止められない。前山隊員は、5分ほど車のまわりを調べつつ、考えこんでしまった。
「リスクの少ない順番で……」
 まず最初に右後輪の空気を抜き、車体を低くして、左後輪を接地させようとした。が、車は動かず、つぎにエアジャッキを入れると車体がずれて、ほんの少しタイヤが接地した。右後輪下の石をどかして、アルミの板を橋に渡し、細かく何度も何度も切り返して―。

「出たんです。ぎりぎりのところで出て、いやぁびっくりと言うか」
 河合さんは感動まじりだが、そのあとの前山隊員の電話に驚いた。クレーン車の業者に連絡していた。
「そういうのも手配してたんですね。さすがやなと思ってね」
 前山隊員は、苦笑する。
「いやぁ、やってみないとわからない不確定な部分もあったので、事前に問合せだけしてました」

 山でのトラブルは、自然が相手なのでどういう状況になるかわからない。プロでも覚悟をする。
「でも、ここは、山が観光資源みたいなもんですから」

 隊員たちの日常が、そこにある。
(写真・文=松尾伸弥)

駆けつけた隊員

前山孝司 隊員 43歳

徳島基地。
「それぞれの隊員が築きあげてきた経験があるので……二十何年やってきても、まだ発見があります」

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