お客様の声
〜JAF ストーリー〜

141

2018年4月号

タイヤハウス

コテツ物語

お客様
綾田映子さん(47) - 福岡県

 綾田映子さんは、実家から車で5分くらいの場所で暮らしていた。お父さんが高齢で、車の運転に不安を覚えたこともあり、そろそろ実家でいっしょに住もうと考えていた。映子さんが飼っている猫も実家に馴らさなくてはいけない……そんなことをぼんやりと計画していた昨年の夏―。

 7月4日は、朝から土砂降りだった。家から実家までのあいだにあるただひとつの信号で停車。右側にコンビニがあり、女の人がふたり、傘をさして駐車場を歩いてくるところだった。ふたりは、こちらを指さしてなにか言っている。
「なんか言いよんしゃるから、ちょっと窓を開けたら、いまね、車の下に子猫が入ったよって教えてくれたんですよ」

 映子さんは驚き、ハザードをつけて車を左に寄せ、降りた。
「ふたりもこっちに来てくれて、うしろのタイヤのところから、こう入っていったよって……」

 覗きこんだが、なにも見えない。
「逃げたのかと思って……でも、女性のかたは、いや逃げてない、上がりよったって言って……」

 ふたりは「しょうがないけん、いいよいいよ」と言いながら去っていく。そうかんたんに割り切れず、映子さんは恐る恐る車を発進させ、ごく低速で実家に向かった。

 実家に着き、車庫に入れて、ライトを当ててじっくりと見た。
「ホイールの隙間を見たら、いたんですよ。背中からお尻、丸まった感じの、白黒のモフモフが見えて、うわっ、おったと思って」

 映子さんは、ジャッキアップして、タイヤをはずした。すると、猫のお尻に手が届いた。そっと引っぱってみたが、出ない。
「はさかっとると思って。あんまり引っぱりすぎて、なんかほら、どっか切れちゃったりとか……もう、わけがわからなくなっちゃって、JAFさんにお願いしようと」

 JAFに電話した。やってきた亀川伸司隊員はすぐに確認した。
「左後輪のタイヤハウスのロア・アームとボディの隙間のせまいところに顔から入ってました。自力では出られない状態で……」
「ものの何分かで、取れましたよ、ゆうて……。手のひらに載せてもらって、はなしますよって、隊員のかたが首根っこの手をはなした瞬間に、その猫、うわって暴れて、ピョンと飛びおりて逃げたんです」

 実家周辺は山。カラスもイノシシもいる。その夜、家のまわりで鳴き声がするのをお母さんが聞いた。翌日、ふたたび映子さんは実家に行き、エサを用意して、何日もかけて少しずつ馴らした。雄だとわかったころに、コテツと名づけた。コテツのエサにつられて、近所にいた野良猫もやってきて、ダイキチと名づけられた。もとから飼っているモモと映子さんも実家に戻り、いまは3匹の猫が仲良く暮らしている。
「動物と話せるんであれば、なんで、あんな大雨の日に、わざわざ、私の車の、あんなせまっちいところに乗ってきたのって、ぜったい聞いてみたいと思うんですよ」

 映子さんは、幸せそうに言った。
(写真・文=松尾伸弥)

駆けつけた隊員

亀川伸司 隊員 56歳

筑豊基地。
「最近は猫が増えたせいか、親猫がバンパーの隙間などで出産する事例もあります」

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